｢一楽、二萩、三唐津｣。

茶の湯の茶碗についてこう言われる程、萩焼は茶の湯にかかせない窯業地です。

一口に萩焼と言っても、萩市の窯と、萩市西隣の長門市の窯に二分され、今回ご紹介する坂倉正紘さんの窯は長門市にあります。

窯の近くには、私も大好きな名湯、長門湯本温泉があり、近くを流れる音信(おとずれ)川では、この拙筆を書いている水無月の頃、無数の蛍達が飛び回っている事でしょう。

私も一度、彼の地の蛍を拝見したのですが、その想像を絶する光の海は圧巻で、心が奪われました。

坂倉正紘さんは、十五代 坂倉新兵衛氏の後嗣であり、作陶と茶の湯の道を真っ直ぐに歩まれています。

三年前の夏には、貴重な初個展の場に未熟な弊廊をお選び頂き、感謝の気持ちで一杯でした。

さて、本展では、最新作の茶陶など、120点を発表致します。

ご案内状用にと送ってくださった上の写真の茶盌は、小躍りする良盌でした。

高台付近の火間と口造りのベベらが見所になっていて、引き締まったやや小ぶりな佇まいも緊張感があります。

いつもながら唯一無二な正紘釉薬の上がりも良く、さぞ美味しい一服が頂ける事でしょう。

正紘作品の真骨頂は、古萩を守りつつ、でもそこに彼らしい清新な息吹きを加え、茶陶にあきたらず、オブジェなどの造形物にも果敢に挑まれている所でしょう。

心豊かなお人柄で愛陶家の皆様の心を掴んで離さない正紘さんもご在廊予定です。

暑い最中の展示で恐縮ですが、ご清覧頂き、若き陶工に厳しいご指導を頂ければ幸いです。

私もいつかまた、正紘さんを訪ね、長門の湯につかり、音信川の蛍に会いに行きたいと願っています・・・

店主 安田尚史