古唐津における「砂岩説」をご存じだろうか？

とくに初期の古唐津は、陶土ではなく砂岩を砕いて土にし、素地の原料にしたというものだ。

古唐津の魅力に惹かれ、その追求とともに個人としての作品づくりを長く続けている陶芸家の中に、その説を検証してあらためて古唐津の研究や自身の作陶を見つめ直し、その成果を作品づくりに生かそうとする動きが見られる。

日本伝統工芸展や菊池ビエンナーレなどの公募展において、茶碗で入選してきた安永頼山（やすなが・らいざん、昭和45年生まれ）もその一人だ。

陶土による作品づくりで結果を出しつつも、一度は手掛けてみないと前には進めないだろうと気になっていたことが、砂岩を原料とした作品づくりであった。

そしてこのところ、個展の機会を使ってはその制作の一端を示しつつある。

砂岩による茶碗の特徴は、土味や釉薬の変化が少なく、しずかでおだやかで派手さが少ない。

見どころとしてきた要素がそぎ落とされて、一見しておとなしいという印象だ。

陶土と比べ、粘りもコシもあり、轆轤が挽きやすく、焼成では低い温度で焼き締まり、時間も短いという。

それは別の方向から捉えると、これまでに得た知識とは異なった新たな構築プロセスの中で、新たな素材を生かす新たな技量が必要となる。

つくりたいモノに応じて陶土素地から砂岩素地までを駆使した安永の、より懐が大きく深い作陶の成果が見られるとともに、鑑賞者としても新たな発見がありそうだ。

まさに過渡期となる今回の個展は見逃さないようにしたいものである。

唐澤昌宏（国立工芸館長）