作家五人による卅盌展
30 Chawans exhibition by five potters
作家五人による卅盌(さんじゅうわん)展
会期 Schedule |
令和3年3月15日(月)~3月21日(日) March 15 - March 21, 2021 |
開廊時間 Opening Hours | 午前11時~午後7時まで(最終日の3月21日は午後5時まで) 会期中無休 Open daily 11 am to 7 pm except for March 21, when the gallery will close at 5 pm. |
出品作家 Artist | 市野雅彦 Ichino Masahiko 板橋廣美 Itabashi Hiromi 金重 愫 Kanesige Makoto 田中佐次郎 Tanaka Sajiro 加藤清之 Kato Kiyoyuki |
ご紹介文 Introduction |
茶碗は、茶室という空間の中で鑑賞すべきものである。 そうでないと、茶碗は真(まこと)の姿を見せてはくれない。 茶碗鑑賞には、茶室という閉鎖的な空間と、その室内の光がとても重要である。 利休は、名物や唐物がなくても、それに匹敵するだけの芸術性を持った茶室という空間を創造した。これは画期的なことだ。 それは、名物や唐物の茶碗を用いず、今焼の茶碗で茶を飲んだことにも相通ずる。 ならば、現代作家の茶碗で茶を飲むのであれば、それに相応しい現代の茶室が必要だと言いたいところだが、逆に茶室があるからこそ、茶道具があるということも言える。 すなわち、茶室の空間に合わせて、茶道具の寸方が決まるということである。 茶の湯の楽しみは、茶室の中にあると言っても過言ではない。
林屋晴三氏は、著書『名碗は語る』の中で「茶碗というものは、『観る』というよりも、『語り合う』ものではないか。そして語りの深いものが『名碗』ではないかという心境に至った」と書いている。 茶人として生きた、いかにも林屋氏らしい言葉だ。 さらに、「しかし、『雪の曙』(川喜田半泥子作の茶碗)のあと、これを凌ぐほどの茶碗を誰も造っていないことは確かであり、今を生きる私としては残念なことでもある。茶の湯の名碗を造れる時代は去ってしまったのであろうか」と投げ掛けている。
今回、市野雅彦(60歳)、板橋廣美(73歳)、金重 愫(76歳)、田中佐次郎(84歳)、加藤清之(90歳)の五名の作家に、渾身の力を込めた茶碗六盌の制作をお願いした。 私の願いを聞いて下さった五名の作家には、心から御礼を申し上げたい。 なぜならば、作家にとって100%満足のいく茶碗などないからである。 だからこそ、渾身の茶碗に挑戦することに意味があるのだと思っている。ダイレクトメールの茶碗は、それぞれの茶碗の姿を出来る限り正確に伝えたくて、新宿 柿傳の茶室「一与庵」にて撮影した。 茶碗鑑賞のポイントである口造りと高台、それと見込みを掲載したが、図版が小さいので、ぜひ会場にて実物を観ていただきたい。 それでは、五人の作家と茶碗をご紹介しよう。
五人の中で一番若い市野雅彦が、今年還暦になった。 昔は「茶碗造りは五十を過ぎてから」と言われた時代もあったが、もう遠慮せず茶碗を造ってもいいだろう。 初代市野信水は高麗茶碗写しの名人であったが、この茶碗を見ると、間違いなく市野もその血を引いている。 茶碗を茶室に置いて眺めていると、高麗茶碗の名碗の姿が思い浮かぶが、これは正真正銘《丹波赤ドベ茶埦》である。 丹波篠山の弁天の田土を用いて、赤ドベで化粧掛けしている。 田土に含まれる黒い粒々が独特な風合いを醸し出している。 そして、掌に取ると赤ドベ特有のやさしい温もりが伝わってくる。
板橋廣美の茶碗は高台から造り始める。 それは、必ずしも丸い高台ではないが、高台本来の本質からは外れていない。 高台をバーナーで焙りやや固めてから、土が柔らかいうちに茶碗の形に仕上げる。 既成の茶碗の概念に捉われず、土がなりたい形を探る。 口造りは意識せず、自然に成った形に筋目を入れて切る。 制作方法が変われば形も変わるというのが、いかにも板橋らしい発想だ。 《椿灰白化粧茶碗》は、白化粧の上に椿灰を掛けて1260°で焼成したもの。 化粧の上の淡い錆色が椿の花を思い起し、お茶の色と合わせて侘びを感じさせる。 本展には、そうした様々な方法で制作された種類の違う茶碗が出品されるという。
じっくり語り合う茶碗として、数多い備前焼作家の中から、私は金重 愫の茶碗を選んだ。 なぜならば、この茶碗は作家に似て寡黙であるからだ。 じっくり語り合うなら、饒舌な茶碗より寡黙な茶碗の方がいい。 この《備前茶盌》は、胡麻と焦げと光沢を抑えた赤褐色の土肌が、静かな幽玄の美を醸し出している。 高台周りのヘラ削りにも、作家の深い想いが感じられる。 それは決して目立つことなく、それでいて金重 愫のゆるぎない美意識に支えられている。 高台と見込みは、ずっと眺めていても飽きない。 本展には備前焼以外の茶碗も出品されるという。 どんな茶碗が出品されるのか楽しみである。
田中佐次郎の茶碗は、どれも躍動感に溢れている。 この《唐津皮鯨茶垸 銘「荒磯浪」》の高台を観ても、その激しさが感じられる。 大きく波打つ口造りを眺めていると、どこからともなく押し寄せては返す波音が聞こえて来る。 この茶碗には「荒磯なみ ありかつ君を いとど待つ 千鳥なきそね 岸の松風」という作家自詠の和歌が添えられている。 意味は、荒浪が磯に打ちかける激しさと同じように、私の胸の内は愛しい君を更にお待ち致します。 千鳥よ、鳴かないでおくれ。私は岸辺にある松に強い風があたるように耐えておりますというもの。 茶碗から生まれた作者の恋歌である。
加藤清之は昨年90歳になった。 これまで私は、加藤の《灰釉茶碗》に対して、「茶に媚びず茶を飲める唯一の茶碗」と評してきたが、昨年の新作茶碗を見ると、そうした意識すら超えているように感じられた。 真に自由の境地を極められたのか、心の赴くままに造形も模様も表現されている。 《黒土白泥彩茶碗》は、轆轤造りではなくタタラ造りによるもので、加藤の強靭な造形力と研ぎ澄まされた感覚によってモダンな茶碗に仕上がっている。 さらに、口縁がべベラになってとても躍動感に溢れている。 この作家の造る茶碗は、どれも清潔感が漂い、心が洗われるようで気分がいい。
森 孝一(美術評論家・日本陶磁協会 常任理事) |
略歴 Biography | □市野雅彦 Ichino Masahiko 昭和36年 兵庫県篠山市生まれ 平成11年 日本の工芸「今」百選展(三越エトワール、パリ・フランス 他) 平成18年 日本陶磁協会賞 平成22年 現代の茶-造形の自由(菊池寛美記念 智美術館、東京) 現代工芸への視点-茶事をめぐって(東京国立近代美術館工芸館) 平成23年 兵庫県文化賞 平成27年 市野雅彦‐軌跡、丹波にて(兵庫陶芸美術館) 平成28年 うつろのかたち-市野雅彦・陶展UTUWA(パラミタミュージアム、三重) 土のおもむくまま-市野雅彦展(LIXILギャラリー、東京) 近代工芸と茶の湯Ⅱ(東京国立近代美術館工芸館) 令和2年 国立工芸館 石川移転記念展 -工の芸術-素材・わざ・風土 □板橋廣美 Itabashi Hiromi 昭和23年 東京三鷹市生まれ 昭和52年 多治見市陶磁器意匠研究所 修了 昭和59年 中日国際陶芸展 84大賞 平成3年 47ファエンツア国際陶芸展 買い上げ賞(イタリア) 平成8年 出石磁器トリエンナーレ 大賞(兵庫) 平成19~26年 金沢美術工芸大学工芸科 教授 平成30年 「伊藤慶二・板橋廣美 2人展」ギャラリー数寄 (愛知) 「重力内無重力」LIXILギャラリー 個展(東京) 令和元年 「現在地 未来の地図を描くために」金沢21世紀美術館(石川) 令和2年 「OVERGLAZE」個展 館・游彩(東京) IAC国際陶芸アカデミー会員 □金重 愫 Kaneshige Makoto 昭和20年 岡山県備前市生まれ 昭和44年 京都大学農学部卒業 後、父 金重素山に師事する 昭和54年 独立 平成23年 山陽新聞文化功労賞受賞 令和元年 岡山県文化賞受賞 これまでに東京、大阪、岡山、ミュンヘンなどで個展多数開催 □田中佐次郎 Tanaka Sajiro 昭和12年 福岡県に生まれる 昭和40年 縄文・弥生土器を研究、手びねりを始める 昭和46年 肥前唐津古窯址を発掘調査、作陶活動を開始する 昭和50年 唐津に登窯を築窯する 平成16年 韓国に登窯を築窯 平成20年 韓国ソウルロッテ百貨店にて個展 平成26年 スイス・ジュネーブにて個展 平成28年 ニューヨークにて石黒宗麿二人展 □加藤清之 Kato Kiyoyuki 昭和6年 愛知県瀬戸市に生まれる 昭和39、 40年 朝日陶芸展 大賞 昭和45年 日本陶磁協会賞 昭和62年 勅使河原蒼風コレクションによる加藤清之展(草月美術館) 平成17年 土から生み出すかたち・造形の軌跡 加藤清之展 (愛知県陶磁美術館) 平成19年 日本陶磁協会賞 金賞 平成30年 加藤清之展(福井県陶芸館) 朝日陶芸展審査委員長はじめ多くの公募展の審査委員を歴任 |
作家在廊日 Date Artist in Gallery | 市野雅彦 3月18日(木) 板橋廣美 3月15日(月) 金重 愫 3月15日(月) 田中佐次郎 3月15日(月)、16日(火) ※ 恐れながら、コロナ禍の影響で、変更になる可能性がございます。 |
出品作品 Exhibited Works | 茶碗 |
DM | この展覧会のDMを見る(PDF) |
お知らせ Notice | ■販売方法につきまして 1 本ホームページの掲載作品 ・2月27日(土)11時から、お電話にて承ります。 ・申し訳ありませんが、受付順の正確性を保つため、メールやFAXではお受けできかねます。 2 本ホームページに掲載されてない全ての出品作品 ・通常通り、会期初日3月15日(月)の開廊時刻11時から販売を始めます。ご来廊頂けない方は、同時刻よりお電話、メールやFAXにて承ります。 出品作品の詳細につきましては、どうぞ弊廊までお気軽にお問い合わせを頂ければ幸いです。 皆様からのお問い合わせを心よりお待ち申し上げております。 ■コロナ禍による開催内容の変更の可能性 恐れながら、コロナ禍の状況で、さらなる営業自粛を要請された場合などは、会期と営業時間の変更や、最悪の場合オンライン展示のみの可能性もございます。どうかご理解を頂ければ幸いに存じます。 お手間をおかけして恐縮ですが、最新情報は、このホームページにて発信致しますので、此方をご確認頂ければ幸いです。 ■新型コロナウィルス感染予防対策 ご来廊される皆様に、弊廊でのひとときをより安心してお楽しみいただけますよう、下記の新型コロナウィルス感染予防対策を実施しております。恐れ入りますが、お客様のご理解とご協力を頂けますよう、よろしくお願い申し上げます。 1 大切なお客様へのお願い ・弊廊入口とビル入口に、アルコール消毒液を設置しております。ご来廊の際は、恐縮ですが、手指の消毒をお願い申し上げます。 ・お出かけの際は、マスクのご着用をお願い申し上げます。 ・現在、発熱がある場合や体調がすぐれない方は、申し訳ありませんが、ご来廊を見合わせて頂きますよう、お願い申し上げます。 ・過去2週間以内に、発熱や風邪で受診や服薬等をした方、および海外への訪問歴のある方は、ご来廊をお見合わせ頂きますよう、お願い申し上げます。 ・店内の混雑緩和のため、出来る限り、少人数でのご来店をお願い申し上げます。 ・コロナ禍までは、お客様にお出ししていた玉露などの呈茶のサービスを、申し訳ありませんが、当面の間、控えさせて頂きます。 2 弊廊として取り組んでいる事 ・弊廊内に高機能換気システム「ロスナイ」(三菱電機製)を令和3年1月6日に導入致しました。 この新しく強力な換気設備により、15〜20分に一回は、弊廊内の全ての空気が入れ替わる事になります。 ・加えて、入口ドアは常時開放し、一層の換気に務めております。 ・手指消毒用のアルコールは、SHISEIDOさんの消毒液を使用しています。手に優しい保湿成分配合との事で、皆様からご好評を頂いております。 ・日常清掃をより強化致します。 ・お客樣やスタッフが頻繁に手を触れる、エレベーターのボタン、テーブルと椅子、入口ドアとトイレの取っ手、筆・ペンなどのアルコール除菌を営業中にも定期的に行います。 ・弊廊内が多くのお客様で混雑し、密になると判断すれば、弊廊への入場制限をお願いする場合もあります。 ・弊廊スタッフはマスクを着用し、検温や体調管理、アルコールによる手指消毒を徹底して、接客に務めさせて頂きます。 ・令和3年1月20日、スタッフ全員のPCR検査(にしたんクリニック)を行い、全員、問題ありませんでした。 なお、今後も四季折々にPCR検査を実施してまいります。 皆様のご来廊を心よりお待ち申し上げております。 |
主な出品作品 Main Exhibited Works |
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No.4ご売約済 Sold Out
作家名 | 田中佐次郎 |
作品名 | 唐津皮鯨茶垸 銘 荒磯浪 |
価格 | 税別100万円 (税込1,100,000 円) |
箱 | 桐箱付(後日) |
寸法 | W 17.8 × D 16.0 × H 8.8(㎝) |