千登勢 「萬葉集」 平成屏風展 [協力:UNAC TOKYO]
会期 Schedule |
平成28年2月9日(火)~2月11日(木) February 9 - February 11, 2016 |
開廊時間 Opening Hours | 午前11時~午後7時まで(最終日は午後5時まで) 会期中無休 |
ご紹介文 Introduction |
文字にこめられた言霊(ことだま) / 熊倉功夫
正直なところ、寄稿を求められて、これほど困ったことは記憶にない。 寄稿すべき内容が、ほぼ把握できて、次に書きたいこともイメージできる、というのが通常の手順なのだけれど、千登勢さんの仕事は、私の想像をはるかに越えていて、この途轍(とてつ)もない作品を前に、呆然としている。 千登勢さんの六曲一双の『萬葉集』を見て、脳裏に浮んだのは、かつてスイスのローザンヌで見たアール・ブリュット・コレクションの作品である。異常なエネルギーが紡ぎだす驚嘆すべき作品に圧倒された記憶が、一種のデジャ・ヴュのようにたちあらわれた。 もちろん千登勢さんの作品はアール・ブリュットとは本質的に異なる。千登勢さんはごく正常な常識人であるし、また美術の世界の外(アウトサイダー・アート)の作家とも違って正規の書の教育を受けておられる。だからアール・ブリュットとは無縁なはずなのだけれど、もし共通するところがあるとすれば、書に対する常規を逸した情熱ということであろうか。 千登勢さん以前に、気が遠くなるほどの量があって、しかも美しく立派な文字を書き続けた人びとがいるとしたら、奈良時代の写経生はその一つだろう。これは本人の意志で書いたのではなく仕事として命じられて書写したのであるが、ぼうだいな経典の書写が可能であったのは、宗教の力が働いていたからではなかっただろうか。宗教は人間の中から途轍もない力を引き出すことができた。 宗教をもう少し広く解釈して、われわれと共に自然の中に遍在(へんざい)するカミも含めるならば、カミもまた、しばしば人間の異常な能力を引き出してくる。「カミ=霊」に導かれて、千登勢さんの書は創造されたのではないかと思う。 言霊(ことだま)はコトバに宿るカミである。文字にも宿る。千登勢さんの書は言霊のなせる書というべきであろう。文字を書くということは、言霊に魅入られた人にとっては、空気を吸って吐くことと同じくらい、無意識に動いてしまう体の運動である。そうでもなければ『古事記』を二度も書いたり『古今和歌集』を全巻、一気に作品として集約することはできない。今回の『萬葉集』にしても、もはや無心としかいいようのない境地で筆の赴くままに進ませる千登勢さんがいたからこそ、完成したのである。 なぜ『萬葉集』なのか。海上雅臣氏が書かれているように、賀茂真淵から本居宣長へと引き継がれる国学の流れの必然である。(「かえりみよう「書」の原点―千登勢の書展を見て」『六月の風』)。日本が大陸からあるいは近代になって西洋から大きな波が打寄せて文化の軸がゆらぐ時、『萬葉集』がたちあらわれ、人びとが自らの位置を確認した。それは錨(いかり)のような役割を果してきた。伝統文化が音をたてて崩壊している現代にあって、千登勢さんは『萬葉集』という錨をたぐりよせたのだろう。 萬葉集平成屏風の前に立つと、文字そのものが勝手に動きだすような不思議な感覚にとらえられた。線は上から下へ筆が動いて文字となるのだから、天から滝の水のなだれ落ちるイメージがまず浮ぶ。しかし、私には、文字が上へ上へとよじ登ってゆくようにも思えた。文字一つ一つが生命体になってからみあい、ひしめきあって、萬葉集平成屏風ができあがっている。 文字を書くということは、書かれている内容を読む人に伝えるという使命を持つ。そのことを最も強く意識したのは井上有一であろう。しかし千登勢さんは、この屏風をもって『萬葉集』を、見る人に読ませようとしているわけではない。『萬葉集』という日本の原点となる歌の全て、四五一六首がこの一双の屏風に収められていることが大切で、文字の一つ一つに言霊が宿ってあふれるばかりの霊気が見る人に迫ってくるところに、前人未踏の境地を拓いたのである。 是非、屏風の前に立って、文字にこめられた「気」を受けとめていただきたいと思う。 |
主な出品作品 Main Exhibited Works |
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No.13
作品名 | 【左】声 【右】声 |
価格 | 【左】129,600 【右】129,600 [ご売約済] |
寸法 | 【左】W 65 × D 65 × H 2.5 (㎝) 【右】W 65 × D 65 × H 2.5 (㎝) |
No.14
作品名 | 【左】志貴皇子うた 【右】大伴家持うた |
価格 | 【左】 54,000 【右】 54,000 |
寸法 | 【左】W 30 × D 30 × H 2.0 (㎝) 【右】W 30 × D 30 × H 2.0 (㎝) |
No.15
作品名 | 【左】笠郎女うた 【右】笠郎女うた |
価格 | 【左】 27,000 [ご売約済] 【右】 27,000 |
寸法 | 【左】W 18.5 × D 26 × H 2.0 (㎝) 【左】W 18.5 × D 26 × H 2.0 (㎝) |
販売方法につきまして
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- DMや当サイトに掲載している作品は、会期が始まる前の事前予約を承っております。
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- 実際に弊廊にお出かけ頂けない方には、お電話やメールでのご注文も喜んで承ります。
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- 皆様からのお問い合わせを心よりお待ち申し上げております。